〜 短編ストーリー 〜 古老の小ばなし

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    ※古老の小ばなし△呂海舛

     

     

    老人「三度目の出会いが初詣とは、これまた縁起がいいのぉ」

     

    前日から降っていた雪が、やわらかい冬の陽射しによってゆっくりと溶け出し、屋根からは雪解けのしずくがポタポタと落ちていた。

     

    実は雅紀は、元日にもこの神社の入り口前まで訪れたのだが、参道を埋め尽くすほど並んでいたあまりにも大勢の参拝者の列に圧倒され、その日は参拝をあきらめてそのまま帰宅の途についたのだった。そして二日後の今日、改めて出直してきたのである。

     

    雅紀「あ、おじいさん、明けましておめでとうございます。またお会いし
       ましたね」

     

    老人「ほほ、おぬしも元気そうじゃの。いやのぉ、新年はいろいろとご祈
       祷の依頼が立て込んでおっての、世話人のわしも忙しくてのぉ」

     

    雅紀「あ、そうですよね。あまり無理をなさらずに」

     

    老人「こう見えて体は丈夫なんじゃよ。いつも山歩きや旅行にも行ってお
       るでの。ちょっと前は、出雲大社に行ってきたんじゃよ」

     

    雅紀「出雲大社ですか?へぇ〜、いいですね。ぼくはまだ行ったことがな
       いんですよね」

     

    古老の言うとおり、年齢の割には丈夫な体つきをしており、声もハッキリしている。それに、愛犬の散歩で足腰もきっと強いのだろう。

     

    老人「なんじゃ、おぬしまだ出雲に足を運んだことがないのか。まあ、い
       ずれ行く機会があるかもしれんな。もし行くときには、できれば神
       在祭の期間がおすすめじゃ」

     

    雅紀「ああ、八百万の神様が集まるっていうあれですね」

     

    老人「そうじゃ。そういうときに出向いて、集いし神々にご挨拶をするの
       もまたいいことじゃ。おぬしの顔を知ってもらうためにものぉ」

     

    雅紀「顔を?へぇ〜、おもしろいことを言いますね。そういう発想はした
       ことがなかったですね」

     

    老人「まあしかし、常日頃からの信仰心が自らを高め、そして神をも高め
       るのじゃ。一人一人の気高く澄んだ思いが、神を格とし成せるのじ

       ゃからの」

     

    雅紀「・・・また難しい話ですね。おじいさんは歩く知恵袋ですね」

     

    いつもながらの古老の「小ばなし」を理解するため、言葉を追いかけながら頭で整理しようとしてみるのだが、気づいたときにはすでに遅し、古老の話はいつも二歩、三歩先を進んでいるような状態なので、話の半分も理解できていないほど、とても鈍足な雅紀だった。

     

    老人「ところで、もうおみくじは引いたかの?」

     

    雅紀「いえ、これからなんです。どうやらぼくの今年の運勢は、十数年ぶ
       りにとてもいい運気みたいなので、きっと大吉がでますよ!」

     

    老人「ほほ〜、なかなか威勢がいいの。まあ、人にはそれぞれ浮き沈みが
       あるからの。人生はそうなっておるもんじゃよ」

     

    雅紀「ええ、そうですね。去年はいろいろと大変なことがありましたから
       ね。今年はいい年になればいいな、と」

     

    老人「まあ、ある意味でおぬしは「苦労の先取り」をしたかもしれんの」

     

    雅紀「苦労の先取りですか。またおもしろいことを言いますね。でも、な
       んとなくぼくもそんな気がします(笑)」

     

    老人「ほほ。まあ、運勢がいいのはともかく、慌てずに事を進められよ」

     

    ニッコリと笑った古老はそう言い残すと、いつものように神社の裏手に続く細道をゆっくりと歩いて行った。

     

    その後、おみくじを引いた雅紀は、「末吉」の文字にがっくりと肩を落とし、書かれているご教示をよく読んでみると、「あまりに一足とびにとんで事をしようとするとあやまります」とあった。

     

    これまでのことを全て見抜かれていることにようやく気がついた雅紀は、古老の後を追いかけたが、その姿はもうどこにも見当たらなかった。

     

     

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    〜 短編ストーリー 〜 古老の小ばなし

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      ※古老の小ばなし,呂海舛

       

       

      老人「ほほ、お若いの、また会ったのぉ」

       

      セミの鳴き声がこだまする快晴の夏、心も体もだいぶ元気を取り戻してきた雅紀は再び神社を訪れていた。こんなにも暑苦しいほどの日に、家にこもっていては逆に病気になりそうだったので、気分転換もかねて出かけたのだ。

       

      雅紀「あ、おじいさん、お久しぶりです…あれ、今日は犬はいないんですね」

       

      老人「ほほ、あいつは今日は留守番じゃよ(笑)」

       

      深い顔のシワがより一層目立つほどニッコリと笑う、いつもと変わらぬやさしい古老の姿がそこにあった。

       

      老人「ところでおぬし、いつもブツブツと何か独り言のようなものを神様
         にお願いしとるようじゃが、どんな願い事を言っておるんじゃ?」

       

      雅紀「あ、いえ、特にお願い事はしていなくて、今日もここへ来させてい
         ただいてありがとうございますと、お礼を言ってるんです。しかし
         おじいさん、ぼくのことよく見てますね」

       

      古老の観察眼にも驚いたが、そう言えば自分は、いつもお礼参りのように感謝を口にしているときが多いな、ということにも気がついた。

       

      老人「まあ、お礼もよいが、何か願い事を言うのも別に悪いわけではない
         んじゃぞ」

       

      雅紀「ええ、これと言って特に願い事があまりないので・・・」

       

      老人「何とも欲が無いやつじゃのぉ。人の願いを聞いて、その願いを叶え
         ることも、神としての大事なお役目の一つなんじゃよ」

       

      雅紀「へぇ〜、そうなんですね。じゃあ今度は何かお願い事をするように
         しますね」

       

      雅紀がそう言うと、古老は長年務めている世話人の仕事で得た豊富な知識をもとに、まるで孫にでも教えるかのように「小ばなし」をはじめた。

       

      老人「神にも得意不得意があっての、願い事を言えば必ず叶うというわけ
         ではないんじゃ。商売繁盛の神さんに、恋愛成就の願掛けをしても、
         全く無理とは言わんが、お取り計らいは難しい場合があるかもの」

       

      雅紀「なるほど。例えば国語の先生の所へ数学の勉強を教わりに行っても、
         全くわからないわけではないけども、やっぱり専門にしている先生
         の所へ行った方がわかりやすいっていう感じですかね」

       

      老人「・・・何とも現代的な例えじゃのぉ。まあ、そうとも言えるかもし
         れんな。まずは、自分の心にその神さんを思い浮かべて念じてみる
         ことじゃ。すると、お神さんの方からおぬしに寄り添ってくれるん
         じゃぞい」

       

      雅紀「神様の方から・・・ですか?」

       

      老人「そうじゃ。人の目には見えんが、しっかりと側についておられるぞ。
         それに、お神さんは「かんせい」じゃないからの。いわゆる全知全

         能という神さんと、神社にいる神さんとは同類性否じゃからの」

       

      古老の話の内容には首をかしげるばかりだったが、雅紀が話を聞き返す隙すら与えない流暢な話に、あたかも全部が理解できたかのような気分にさせられてしまった。

       

      老人「まあ、お前さんの心持ちがどんなものか、鳥居をくぐったときには
         すでに神さんはわかっておるがのぉ(笑)」

       

      長年にわたり、世話人の仕事を務められている古老ならではの、神様という人間を超越した存在の解釈の仕方であり、それと同時に畏敬の念も込められた独特の表現方法なのだろうと雅紀はそう理解した。

       

      老人「お、そうそう、お供えものは、酒がいいのぉ」

       

      ペロリと舌鼓を打つしぐさを見せた古老は、どことなくうれしそうな、それでいて何かを楽しみに待っている子供のような無邪気な表情を見せながら、神社の裏手に続く細道へと歩いて行った。

       

      そんな、これから三度目の出会いが実はもう間近に訪れようとは知るはずもない、とある真夏の日の出来事だった。

       

      《次回に続く》

       

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      〜 短編ストーリー 〜 古老の小ばなし

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        老人「そこのお若いの、おぬしよくお詣りに来ておるのぉ」

         

        これといってとりえがあるわけではない、特に自慢できるものも無い、どこにでもいそうなごく普通の社会人である雅紀が、顔も知らない一人の古老と偶然出会ったのが、風薫る陽気がとても心地よい、ある春の日のことだった。

         

        これまでずっとサラリーマンを続けてきた雅紀は、嫌とは言えないその性格から過酷な労働にも弱音を吐くことなく、会社のために、そして社会のために体を酷使して仕事に打ち込んできたのだが、やはり無理がたたって心も体も病んでしまい、ついには仕事を続けられなくなってしまった。

         

        会社を辞めた雅紀は、建国社会がつくりあげた、労働という企業組織の隷属的支配制度、かつ大義ある使命および責任感をまとった生産型利益追求の枠組みから解放されたことにより、これまでに経験したことがなかった自由への扉を見つけることができた。もう彼を、束縛するものはなくなったのだ。

         

        喧騒な社会組織の中で傷ついた心と体を癒すため、自由な時間を使ってまずはゆっくりとできる静かな場所を求めてみたが、これまで「休日」というのは名ばかりの「無給出勤」をもしいられ、会社の駒として使われてきた雅紀にとって、かえってその自由な時間をどのように使ったらいいのか、休み方を知らない世間知らずな大人であることを自覚した。

         

        まずは近くの公園を散歩し、広い芝生の上を歩き、空を見上げてみた。

         

        こんなに青い空を見るのは何年振りだろうか。どこまでも果てしなく続く澄み切った青い空間を見ていると、まるで自分の体がその中に吸いこまれてしまいそうな錯覚に陥った。

         

        空はこんなにも、閉塞的だった自分の心を解き放ってくれるのかと感動した。雅紀を苦しめていた心の重い鎖が徐々にほどけ、対人関係に思い悩んで固まっていた心も、少しずつほぐされていくような気分だった。

         

        次に行ってみた所は神社だった。もともと神様仏様といったものには子供の頃から人並みではあるが信仰心を持っており、初詣やお盆、彼岸参りなどの世間の一般的な慣習行事には家族と共に参拝をしてきた。

         

        その日も、家からほど近いお気に入りの神社へと足を運んだ際に、冒頭の一人の古老が声をかけてきたのだ。

         

        雅紀「あ、こんにちは。おじいさんもお詣りですか?」

         

        こちらを見てニッコリと笑っていたその古老の風貌は、白髪でヒゲをたくわえ、顔にある深いシワが人生経験の豊富さを物語っていると言ってもいい、ついさっき山奥から下界の様子を見に来た仙人のような姿だった。

         

        そして真横には、古老が連れて歩くには不釣り合いなほどの、いかつくて目が鋭く、ゴワゴワした体毛に覆われた大型の犬がどっしりとした構えで立っていた。

         

        老人「わしはこの神社の世話人じゃよ。もう長年そのお役目を務めさせてもらって

           おる。お前さんがよくここにお詣りに来とるのは前から知っておるぞ」

         

        雅紀「え?ぼくのこと知ってるんですか?」

         

        老人「ほほ。わしら世話人の中には、特別に神社の祈祷や祭祀にまで携わる者もお

           ってな、わしはよくお手伝いをお願いされるんじゃよ」

         

        そう言って指を指した拝殿の内部をよく見ると、その中は祈祷所にもなっており、一般参拝者からの祈祷願いを受け付け、ここで執り行っていた。

         

        老人「わしはいつでもその中から、誰が来たかよ〜く見えるからのぉ(笑)」

         

        古老は笑いながらそう言うと、神社の裏手に続く細道を犬と共にゆっくりと歩いて行った。なんとも変わったおじいさんだなと雅紀は思ったが、その親しみやすい人柄が気に入り、いずれまたお会いしたいなという気持ちもあった。

         

        そんな雅紀の思いが通じたのか、この古老との再会はそれほど遠くない日に訪れるのであった。

         

        《△呂海舛蕁

         

         

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